日本における働く義務と休む権利について、法律の観点から整理しています。
1. 就労の義務
労働契約を結んだ場合には、労働基準法や民法に基づき、契約上の義務として働くことが求められます。
具体的には、雇用主との契約に従い、定められた時間や業務を遂行する責任が発生します。
この場合、労働者は契約に基づく就労義務を負い、これを怠ると債務不履行として法的責任を問われる可能性があります。
2. 有給休暇
(1) 目的
有給休暇は、労働者の心身の健康を維持し、過労を防止するとともに、ワークライフバランスを促進することを目的として労働基準法に定められています。
休息を通じて労働者の長期的な就労能力を保ち、生産性向上や生活の質の向上を図るための制度です。
また、2019年の改正で導入された年5日取得義務は、特に日本における有給休暇の取得率の低さを改善し、労働環境の健全化を目指す意図があります。
(2) 権利の発生条件
- 労働者が同一の事業主のもとで継続して6か月以上勤務し、その期間の全労働日の8割以上を出勤した場合、年次有給休暇の権利が発生します。
- パートタイム労働者やアルバイトも対象に含まれますが、週の所定労働時間や日数が少ない場合は比例付与が適用されます。
(3) 付与日数
初年度は10労働日が付与されます。
その後、勤続年数が6か月増えるごとに付与日数が増加し、最大で年間20日までとなります(勤続6年6か月以上の場合)。
以下に表で示します。
勤続年数 | 付与日数 |
---|---|
6か月 | 10日 |
1年6か月 | 11日 |
2年6か月 | 12日 |
3年6か月 | 14日 |
4年6か月 | 16日 |
5年6か月 | 18日 |
6年6か月以上 | 20日 |
(4) 比例付与
週の所定労働時間が30時間未満、または週4日以下の労働者には、勤務時間や日数に応じた日数が付与されます。以下に代表的な例を表で示します。
週所定労働日数 | 週所定労働時間 | 勤続6か月での付与日数 |
---|---|---|
4日 | 30時間未満 | 7日 |
3日 | 30時間未満 | 5日 |
2日 | 30時間未満 | 3日 |
1日 | 30時間未満 | 1日 |
※勤続年数に応じて比例付与日数も増加しますが、上表は6か月時点の例です。
(5) 使用者の義務
- 有給休暇は労働者の権利であり、使用者はこれを拒否することは原則できません。
ただし、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、時季変更権(休暇の取得時期を変更する権利)を行使できます(労働基準法第39条第5項)。
この権利の行使には具体的な理由が必要で、濫用は認められません。 - 年5日取得義務: 2019年改正により、年間10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、使用者は最低5日を取得させる義務を負います(労働基準法第39条第7項)。
労働者が自主的に取得しない場合、使用者が時季を指定する必要があります。
(6) 休暇中の賃金
- 有給休暇中も通常の賃金が支払われます(労働基準法第39条第1項)。
賃金の算定方法は以下のいずれかとなります。- 通常の賃金
- 平均賃金(過去3か月の平均)
- 健康保険法の標準報酬日額(労使協定がある場合)
実務上は「通常の賃金」が一般的です。
(7) 繰越しと消滅
- 未使用の有給休暇は翌年度に繰り越されますが、2年経過すると時効により消滅します(民法第166条)。
(8) 取得単位
- 原則1日単位ですが、労使協定があれば半日単位や時間単位での取得も可能です(労働基準法第39条第4項)。
時間単位年休は2010年改正で導入されました。
(9) 買い取りの禁止
- 有給休暇を金銭で買い取ることは原則禁止です。
3. 就労の義務と有給休暇の関係
就労の義務は労働契約に基づく責任として存在しますが、有給休暇は労働者の健康や生活の質を保つための権利として保障されています。
労働者は働く義務を果たす一方で、法律が認める休息を取る権利も有しており、これらは相反するものではなく調和的に運用されます。
有給休暇の取得は就労義務の懈怠とはみなされず、むしろ長期的な労働能力維持のための制度です。
この点で、有給休暇の目的である健康維持と就労の義務は相互に補完的な関係にあります。